ルーズリーフ

ひとりごとを書いています

まきちゃんの話



(去年の4月28日に書いて下書きに眠っていたもの。昨日のトークで思い出したので)



まきちゃんというお友達がいる。

高校の時の話。それまで人見知りではあるもののそれなりに生きていた。しかし高2のクラス替え後、知っている人は男の子が一人いるだけだった。まきちゃんも知らないクラスメートの一人だった

SNSで繋がっているようだった。mixyってなに、ラインってなに。

初日の身体測定で、ある女の子Aちゃんと初めてお話をした。気が合ったようで、おもしろくて黙る隙もないくらいずっと喋っていた。私もとてもとても甘かったのだけど、これからAちゃんやAちゃんの知り合いとお話をしてなんとなく溶け込んで高校2年生を始められるものなのかなあと思っていた。

だんだんと、Aちゃんには3人の友達がいるのだなあと分かった。4人は同じ吹奏楽部で、とにかく厳しい部活動をめまぐるしくこなしていた。


なかよくなれたらいいなあと思っていたのだけど、その中のBちゃんがいつもAちゃんにべったりで、Bちゃんにも話しかけてみようにも、いつもあからさまに私に背を向けていた。Aちゃんは申し訳なさそうな顔もしていたけど、Bちゃんに連れられていくしか出来なかった。仕方が無いことだなあと思った
Cちゃんは見て見ぬふりを貫いた。もう一人の子はそんな3人について行きながらもたまに「気にしなくていいよ」と私に囁くことがあった。それがまきちゃんだった。


あくまで推測だけれども4人で出来ていた聖域に私が踏み込んだことで
BちゃんはAちゃんを取られてしまう不安を感じている
AちゃんはBちゃんと私との間で板挟みのような気持ちになっている
Cちゃんはなんか気まずいから早く何とかならないかなあと思っている
まきちゃんは私をスルーすることもつらい
という状況になっているのでは、ということを考えた。
私はそれを無視してまでそこにいたいと思わなかった。


私はお話をしたい子とお話をしたかっただけだったので、このグループに馴染めなかったから次のグループへだとかは考えなかった。
別に一人でいいなあと思った。こうしてクラス替えから一週間後には一人で過ごす構図になっていた。これから二年間。大丈夫だったし、とにかく大丈夫だった

春の遠足も黙々と山に登りお弁当を食べ、下った。ただ、バスが学校につき解散をしてトイレの個室に入ったからしばらく声を殺して泣いた。次こうして緩んでしまったらもう学校には行けなくなると思った。それで毎日毎日学校に行った。もう泣くことはなかった

みんな程よく見ないふりをしてくれていた。興味を持ってくれたのか不思議なことに教室を出ると「連休中に科学館に行く課題一緒にやろうよ」などとメールでお誘いをくれる子もいた。気を遣ってくれていたのかな(あの子しんじゃいそうだから順番に声をかけてあげようとか相談されていたとしたらそれはそれで面白いなあ)
今ライブに行っているお友達もこの教室にいたうちの一人だったのである

だけど教室に行けば夢だったかのようにまた当たり前に元に戻る。私を含め、みんな決まったところで決まった役割をしているみたいだった。それが今でも不思議だしとても興味深い


私の高校ではお寺に泊まりがけで研修に行く行事があったのだけど、行き帰りのバスの座席決めの際にまきちゃんが私を隣の席に指名した。ごめんねと思った。気を遣ってくれたのだろう。教室ではきっぱり一人でいることを選んでいたので、まきちゃんとは久しぶりに喋ってバスで色々なお話をした
そこで初めてメールアドレスを交換した。高校生の間ではもうラインがすっかり定着していたのだけど私はガラケーだった

研修の服装は制服にジャージ、サブバッグは学校のカバンと決められていた。私はそれを守ったのだけど私以外みんなお洒落なリュックやバッグを持ってきていて、まきちゃんはチアリーダー部が使っているのとよく似たボストンバッグを持ってきていた。

「まきちゃんなんでチア部のバッグよ(笑)」
『いやー妹がコレ使っててさ!チア部に入ったみたいだよね』

この会話を、色々なクラスメート達とするのを私は研修中に何度も聴いた。


研修から帰り、代休の連休が空けて少ししてからまきちゃんは放送で職員室に呼ばれることが多くなった。そしていつからか学校に来なくなった。風邪かしらとお見舞いのメールを送ったのだけど返事はなかった。

しばらくして、ホームルームで担任からまきちゃんが停学処分になっていることを聞かされた。まきちゃんが研修に持ってきていたカバンは、チアリーダー部が揃いで使っているボストンバッグを盗んだものだったという。朝練のために教室に放置されたボストンバッグの中身をゴミ箱に捨て、外側だけを持ち帰ったということらしい。


まきちゃんはそんなことをするようには思えなかった。それから、ただ欲しかったのならかばんだけ家の部屋にしまいこんでしまえばよかったのに、何故それを研修に持ってきたのだろう。学校で盗んだものを学校の行事に持ってきてしまえばバレてしまう確率は高い。
私はもう一度なにかメールを送るか悩んだけれど、やめた。なんと送ればよいのかわからなかった

Aちゃんたちは三人になって、たまに体育で二人組になる時に必然的に私とその中の誰かとでやったりした。変わったのはそれくらいであとは当たり前に日常が進んだ


高3の夏にまきちゃんは戻ってきた。
「迷惑をかけてごめんなさい。今日からよろしくお願いします」
転校生の自己紹介のように教卓の前でまきちゃんはぺこりと頭を下げた。


最初の時間割は体育だった。ふと気付いたらまきちゃんが隣にいてずっと喋り続けていた。そっかそうなるよねえ、と思った。妹がキノコ柄の便箋をかってきたとかそのときそんな話を聞いた気がする。これは触れない方向がいいのかなと思って「そうなんだ、どこで買ってきたの?」とかそんな当たり前の話を、気付いたら毎日していた

まきちゃんはよく嘘をつく。バレバレの。私はそれがとても好きでいる

たとえば、当時私は好きなアーティストのキャラクターのパスケースをつけていたのだけどある日待受を私に見せて「見て!好きって言ってたキャラクター、携帯に元から入ってたの!」というのだった

まきちゃんは自分の保身とか自分をよく見せようとか、得をするための嘘はつかない。嘘をつくことで一時でも「わっ」とその場が盛り上がることが嬉しいのだ。と私は思っている

細かい嘘が度々登場するのだけど私は指摘はせず全てにわっと喜んだ。卒業して今もたまに会ったりするけれどカバンの件の真相や嘘をつく真意ついては未だに触れることが出来ない

まきちゃんは高校時代何を感じていたのだろう。クラスメートと同じように見ないふりを貫いていた私に何か思うことがあっただろうか

先日まきちゃんとお酒をのんだ。「モヒートが好きでよく飲むんだ」と言って頼んだのだけど半分も減ってなくて、大丈夫だったかなと思った。ミントが飲めるなんて大人だね、とわっとしてあげるべきだったのだろうか、懐かしい気持ちになった


その後の話をすると、高3の終わり頃からBちゃんは筆箱にカッターを忍ばせ手甲側の指に無数の浅い傷をつけていた。Bちゃんにもやるせない何かがあったのだろう

だけど電車で化粧をすることと同じように、人前でするなんて馬鹿ねと思った。こんな事を思うのは冷たいかもしれないけれどBちゃんのそれはきっと気を引くための行為でしかないし、そんな浅い傷ではすぐに消えてしまうね。
「Bちゃんやめなよ…」Aちゃんは繰り返し呟くばかりだった。Cちゃんは相変わらず見ないふりをしていた
それを見てまきちゃんは何を思ったのか

これは偏見になってしまうのだけれど全体として吹奏楽部という団体が私はとても苦手だった。機械のように朝から晩まで練習をこなし、そこにいれば「安心」している人間が多くいるように感じたのだ。実際吹奏楽部の勧誘は、一人でいる新入生に取り入るように行われているのをよく目にした(全員がそうと言っている訳ではない)私もよくしつこく声をかけられたけれども地下の先輩部員しかいない部へと逃げ帰った

これは本当に本当に私の勝手な憶測なのだけど、あのときわざと見つかるように盗んだのではないかと思っている。まきちゃんにやるせない何かがあって、誰かの気を引くための浅い傷なんかじゃなく、全て壊してしまいたかったのではないだろうか。実は盗み自体ではなくその先の制裁に意味があったのではないか。
これは自意識の過剰になってしまうのだけれど不器用なりにグループや吹奏楽部から抜ける為にしたことだったのでは、と考えたこともある
それともわっとなってもらう快感がエスカレートしてしまったのだろうか。分からないし分からなくていい。


クラスから隔離されたわたしたちは、ただふわふわと卒業まで暇つぶしのように時を過ごした。私はそれがとても心地よく感じていたけどまきちゃんはどう感じていただろうか?

思うことはたくさんあるけれども訊けないしこれからも訊かないのであれこれ考えたことはここに置いておくことにする。